明治大学 理工学部 電気電子生命学科、 半導体ナノテクノロジー研究室 、小椋厚志教授
小椋教授のラボでは、半導体ナ ノテクノロジーの研究を通して 太陽電池やLSIなどの高性能化 を目指している。2018年10月、 ラボにエキシルム社開発によ る高エネルギーX線源MetalJet D2+を搭載した実験室系硬X 線光電子分光法装置 (HAXPES Lab : Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy) が導入され た。HAXPESは固体界面の化学 状態を非破壊で評価することが できる唯一の手段である。
主任研究員
小椋厚志教授
研究機関
明治大学理工学部、電気電子生命学科、半導体ナノテクノロジー研究室、日本
方法
硬X線光電子分光法(HAXPES)
「これまで放射光施設のみで利用可能であった 硬X線を用いた分析手法を実験室に持ち込むこと で、24時間365日の連続測定が可能になった。多数 の試料測定が可能となり、試料作成条件への最適 化を繰り返し行うことで、研究開発が加速し、大いな る進展が得られた。さらに、透過電子顕微鏡(TEM: Trasmission Electron Microscopy)等の他の評価と の相乗効果がより短時間で効果的に発揮できるよ うになった。」
明治大学 理工学部 電気電子生命学科、小椋厚志教授
放射光施設から実験室へ
LSIや太陽電池等の電子デバイスでは、化 学的に不安定な表面に代えて、より安定な 埋もれた界面を利用することで性能の向 上を達成してきた。近年、様々なデバイスの 高性能化が進むにつれ、より一層複雑な多 層構造を持つようになった。多層構造デバ イスでは、特に異種材料間のインターフェ イスの制御が鍵となる。これまで異種材料 間のインターフェイスの物理構造評価には TEM、X線回折(XRD:X-ray difraction)など を用いた。しかし、デバイス性能を左右する 重要な要素である化学結合状態をはじめと する化学的視点からの評価は困難を極め ていた。化学結合状態、電子構造評価には X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)が最もポピュラーな方法であ る。しかしながら、XPSによるインターフェイ ス評価には困難が伴った。その原因の1つ
としてX線源が挙げられる。XPSはX線で励 起した光電子を観測する。しかし、X線強度 が増加すると光電子の発生確率が低下する ため、十分な強度を得るためには、少なくと も2日以上の時間を要する可能性がある。よ って、これまでHAXPESによる評価は、主に SPring-8等の放射光施設で行われていた。 しかしながら、予約済み、メンテナンス中、ア ップグレード中など様々な理由から、実際に 利用できるHAXPESのビームラインの数は 限られているのが現状である。また利用中 は24時間不眠で作業しなければならない 不便さも伴う。
小椋教授と研究メンバー
しかし近年、エキシルム社から十分な強度 を持つ実験室系高エネルギーX線源が開 発された。これがMetalJet D2+ である。真 空中を液体Ga合金が循環し、流れる液体 Ga合金に電子線を照射し、約9.25 keVのX 線を発生させる。このような機構を備えて
いるにもかかわらず、装置は小型で実験室 の限られたスペースに適している。そしてこ のMetalJet D2+ を初めて搭載した実験室 系HAXPESがシエンタオミクロン製HAXPES Labである。
現在我々のラボにおいて、MetalJet D2+ を搭載したHAXPES Labは24時間365日フ ル稼働しているが、非常に高い安定性を示 している。X線の発生位置は安定しており、 現在までに不安な要素は全く生じていな い。日々、世界的に最先端である実験室系 HAXPESの安定した測定を行うことが出来 るのは、放射光施設での実績のあるエネル ギー分析装置に加えて、 小型で高輝度の 実験系硬X線源であるMetalJet D2+が登場 し、最新のモノクロメーターを組み合わせ ることで、狭帯域X線の強力なビームで試 料を照らすことが可能になったことによる と言える。
「実験室系”の呼称にふ さわしいコンパクトで高性 能な装置。極めて安定して 連続測定を行うことがで き、期待以上の成果が生ま れつつある。」
小椋厚志教授
実験室で実現できた硬X線源のPhotoelectron Spectroscopy
Figure 1は、Si基板上に熱酸化により成膜した膜厚30 nmのSiO2を有する多く の電子デバイスにおける、もっとも重要な構成要素であるSiO2/Si構造の非破 壊測定の結果を示している。1839 eVおよび1843 eV付近のピークはそれぞれ Si-Si、SiO2結合に起因する。これまでのX線源(Al Kα, Mg Kα) では、非破壊で 埋もれた界面の化学結合状態を観測することは困難であった。一方、MetalJet D2+ X線源(Ga Kα)を使用することでFig.1のような結果を得ることが出来た。 同時に世界三大放射光施設の1つであるSPring-8で行った同一試料の測定結 果と比較した結果、ほとんど遜色のないデータが得られていることが分かった。
実験系HAXPES装置の可能性
「実験室で予備実験を行ってから放射光施設で測定することが可能となり、適切な役割分担を導入することで、データの量だけでなく質的な向上が見込める。固体界面の化学結合の評価が日常的に行える環境が整い、オペランド測定などの開発を通じて、電子デバイスの評価に関する質的な変化が期待される。」
小椋厚志教授
HAXPES Labが立ち上がって以来、多く方が興味を示され、装置見学や測定の依頼を頂いている。そのため2018年10月の導入以来、昼夜問わず実験を行っている状態であるが、非常に安定している。これからHAXPESは電子デバイスだけでなく、バイオマテリアルなどの多岐にわたる分野への応用が期待される。その一方、まだまだHAXPESという言葉自体に馴染みの無い科学者も多いのが現状である。これからもその可能性を追求し、その有用性を伝えることも我々の重要な仕事の1つであると考えている。
MetalJet-D2+搭載によるHAXPES Lab装置
特長
- 実験室系HAXPES装置
- 高エネルギーX線
- 市場最高レベルの輝度
- 線源の安定性
利点
- 放射線施設と同様の評価実験を日常的に実現可能。
- 励起ネルギーが高い(9keV)ため、通常の実験室XPS(Al KαX線1.5keV)に比べ検出深さが大きい。
- よって、表面状態に依存しない、化学結合、欠陥、インターフェイスの分析が可能。
- タイムリーなデータ取得、データの質や量の充実、他の評価との相乗効果が発揮でき、研究開発が飛躍的に促進される。
- 放射線施設へ運搬する必要がないため、サンプルの損傷リスクが低減。
- コンパクト設計で実験室の限られた空間に最適。
About HAXPES-Lab
HAXPES-Lab is a laboratory system hard X-ray photoelectron spectrometer designed and manufactured by Scienta Omicron, with the Excillum MetalJet D2+ X-ray source at the core.
HAXPES-Lab explained
Dr. Marcus Lundwall and Dr. Susanna Eriksson from the Electron Spectroscopy team at our partner Scienta Omicron share the features and capabilities of the HAXPES-Lab.